大学院紹介

ごあいさつ

京都大学 公共政策大学院長 (大学院公共政策連携研究部・教育部長)  曽我 謙悟公共政策とは、私たちの社会のあり方をよりよいものへ変えていくための強力な道具です。政策のあり方によって、私たちの社会は大きく異なったものになっていく。それゆえ、そこには大きな可能性があり、同時に、危険性もあります。多くの社会的課題が山積し、人々の暮らしに影を落とし、ウェルビーイングの低下を招く。適切な公共政策を策定し、実施することができなければ、そうした事態を招いてしまいます。 公共政策に携わるプロフェッショナルを養成することが、この大学院の使命です。では、いかにしてそれを実現していくのか。私は、そこで重要になるのは、「つなぐ」ということだと考えています。社会の中の課題は、そのどれ一つをとっても、多面的であり、様々な糸がもつれるような状態にあります。その糸を一つ一つ解きほぐすためには、一つの方向からアプローチするのでは不十分です。問題の要因を突き止めた上で、関係する様々な人や組織の協力を得ながら、状態を改善していく手を打っていく。初手で上手くいかなくても、つぎの手を用意していく。複数の知識を用い、人や組織を巻き込み、人の行動や考え方に働きかけていく。そういった知識、人、行動を「つなぐ」姿勢が求められているのだと思います。 ここで学ぶ学生が、そういった人材へと育っていけるように、次の三点をこの大学院は提供しています。第一は、公共政策に関わる多様な学問分野の体系的理解です。法学、政治学、経済学をはじめとして、社会科学の様々な分野、さらには街づくりや防災など実践的な課題に関わる学際領域も含めて、実に多くの学問分野に関する講義が用意されています。学部段階で学んだことを基礎としながら、他の学問領域についての知識を得ることで、同じ問題について異なる視点から捉えることができるようになると、問題の理解がぐっと立体的になるはずです。 第二は、具体事例に則した社会課題の把握と解決方法の検討、データ分析の手法と実践、英語による情報収集やコミュニケーション・スキルの修得といった多様な技能と能力の育成です。実務経験を有する教員が具体的な事例を取り上げ、受講生と検討を加えていくケーススタディ(CS)科目は、この大学院の特徴を最もよく表す講義といえます。これ以外にも、学部では触れる機会がなかったか、基礎的な段階にとどまってきたデータや情報の収集、分析、得られた考察の発表についての様々なスキルを身につける機会があります。これらを総合的に組み合わせ、自由に使いこなせるようになるトレーニングを積むことで、高度なプロフェッショナルに求められる水準を目指します。 第三は、多様性に富んだ構成員からなるコミュニティです。教員組織は、法学、政治学、経済学の研究者として歩んできたものと、豊富な実務経験を有するものの双方から構成されています。学生は、本学の法学部や経済学の出身者のみならず、多様な学部、大学の出身者で構成されています。留学生や社会人学生も一定数、在籍しています。これまでの修了生は700人近くに上り、中央府省庁や地方自治体を中心に、国際機関やシンクタンク、NPOやNGO、さらにジャーナリズムや様々な民間企業で活躍しています。多様な人々が、相互に敬意を持って交流することによって、自分のこれまでのあり方が問い直され、新たな視野を手にすることができるのです。 知識をつないで理解し、スキルをつないで用い、人とつながっていくことで、この社会を前に進めていく。そういった人々が集まる場として、この大学院は存在してきました。その良さを維持しながら、さらに発展させていければと願っています。

 
2024年4月
公共政策大学院長 曽我 謙悟